令和元年度 事例3 解説

令和元年度(2019年度)中小企業診断士二次試験【事例3】解説(解答例付)

令和元年度(2019年度)中小企業診断士二次試験【事例3】解説(解答例付)

・この記事では、令和元年度(2019年度)【事例3】を解説していきます。

・与件文、解答用紙については各予備校の公式サイトからダウンロードしてください。

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令和元年度(2019年度)【事例3】の特徴

【出題内容】

設問出題内容難易度
第1問SWOT分析
第2問事業戦略★★
第3問(設問1)事業戦略
第3問(設問2)事業戦略★★
第4問経営戦略

(難易度目安)
★:解答し易い
★★:合否を分ける設問
★★★:難易度が高く、合否に差が付かない設問

【与件文の量】
例年通り(約3ページ)

【解答文字数】
例年通り(560字)

【配点・出題数】
例年通り(20点×5設問)

【難易度】
やや難しい

難易度はやや高め

C社の問題・弱みが読み取りづらい

・例年の事例3は、与件文にC社の問題や弱み、改善すべき点が明示されており、「ではそれを改善するにはどうしたら良いか?」ということを解答するという構成になっていました。

・今回の事例3では、与件文に直接的な問題や弱みの言及がなく、「X社から機械加工工程を移管した場合、どのような問題が発生するか?」ということを自ら整理した上で(第2問)、「それを解決するにはどうしたら良いか?」を解答する(第3問設問2)必要があり、例年よりも取り組みづらかったと思われます。

生産管理上の問題を整理できたか

・第12段落に「生産管理の見直しが必要になる」とある通り、C社の現在の生産管理体制ではX社からの受託生産には対応できません。

・例年であれば、与件文から何が問題になるかが容易に読み取れるのですが、今回の事例では問題が生じるであろう点を自ら整理する必要がありました。

・X社からの機械加工の受託生産に応じた場合、生産管理体制がどのように変わるか、それに伴ってどのような問題が生じる可能性があるかを整理すると以下の通りです。

現状X社からの受託生産
生産形態多品種少量多品種少量
生産形態ロット生産(バッチ処理)記載無し
生産形態受注生産※受注生産+見込生産が必要(第3問設問2)
生産方式後工程引取方式X社との管理方式
(かんばん方式)
工場レイアウト機能別レイアウト記載無し
生産計画納期優先
月毎の日程計画
短納期の場合は都度調整
3ヶ月前に内示
1ヶ月毎に見直し
3日前に確定
※計画立案頻度の見直しが必要(第3問設問2)
材料調達日程計画確定の都度発注
加工日1週間前に納品
※材料調達方法の見直しが必要(第3問設問2)
在庫受注分のみ※受注分+見込在庫が必要(第3問設問2)
加工工程数記載無し5工程
生産量記載無し現状の約2倍

・80分という限られた試験時間の中でここまでの整理をすることは容易ではありません。普段の学習の中でこういった整理をするトレーニングをしていたかということが、今回の事例3の成否に直結したと思われます。

一貫性の意識

・設問構造を確認すると、第1問がSWOT分析、第2問、第3問が事業戦略、第4問が経営戦略です。

それぞれの問題を個別の問題として捉えるのではなく、全体としての一貫性を意識出来たかということが重です。

・第1問ではS(強み)しか問われていませんが、同時にW(弱み)、O(機会)、T(脅威)を分析し、与件文や問題の流れからC社のあるべき姿、方向性(経営戦略)を明らかにし、それぞれの問題で何を問われているのか、他の問題とどのように関連しているのかを理解した上で解答していく必要があります。

①SWOT分析(第1問)を行い、C社の状況を明らかにする。
S(強み):熱処理設備、多品種少量生産に対応可能、機械加工工程に対応可能、技術力が高い
W(弱み):X社依存、既存顧客依存、新規営業体制が無い、技術力の属人性が強い
O(機会):X社からの受託生産の依頼
T(脅威):記載無し

②C社のあるべき姿、方向性(経営戦略)を明らかにする(第4問)
「生産管理体制の改善、生産性の向上を図り、既存顧客からの受注拡大、新規顧客獲得により業績を拡大する。」

③経営戦略を実現する為にO(機会)をどのように活かせるか(第2問)

④経営戦略を実現する為に新工場をどのように位置づけるべきか(第3問設問1)

⑤経営戦略を実現する為に改善すべきことは何か(第3問設問2)

正確な一次知識が必要

・今回の与件文ではバッチ処理、機能別レイアウト、マシニングセンタ、後工程引取方式、かんばん方式、差立(さしたて)方法といった専門用語が頻繁に使われています。

・語彙を直接問われる問題は出題されていませんが、上記の整理をしていく中で、それぞれの単語が何を意味しているのか、メリット、デメリットは何かといった、正確な一次知識が必要になりました。

IT系の問題が無い

・事例3では毎年IT系の問題が1問出題されていましたが、今回は出題がありませんでした。

過去、IT系の問題が出題されていないのは平成28年度のみです。
IT系の問題はある程度パターン化されており、事前に対策をしておけば得点源になることが多い論点ですので、引き続きIT系問題の対策はしっかりとしておきましょう。

第1問

・そもそも与件文の中でC社の強みとし読み取れる内容自体が少ない為、比較的対応し易い問題だったと思います。

設問要求に「C社の事業変遷を理解した上で」とありますので、熱処理専業企業として設立→技術を蓄積→機械加工に対応→高い品質、技術力という流れを意識して解答を作り上げましょう。

因みに、高い技術力を持つ社員がいるというのは強みではありますが、個人の技術に依存しているという意味では弱みであり改善すべき点です。これが、第13段落のC社社長の方針や、第3問(設問1)の解答に繋がっていきます。

解答例

強みは、①熱処理設備を保有し金属熱処理の特殊な技術を蓄積していること、②多品種少量の機械加工に対応可能であること、③技術力が高い作業者がおり品質が高いことである。(81字)

第2問

・第2問と第2問に連動する第3問(設問2)は今回の事例3のポイントとなる問題です。

・冒頭でも記載した通り、今回の事例3では改善策を考える前に、どのような問題が生じるかを整理する必要があります。

・冒頭の整理を見ていくと、現状は完全な受注生産で、材料調達についても都度発注をしています。

・X社からの受託生産に応じた場合、最終数量が確定するのは3日前です。現状の納期がどの程度の期間なのかは明示されていませんが、現状に比べるとより短納期対応が必要になることは明らかです。

短納期対応を行う為には、一部見込生産を行う必要がありますので、在庫が増加する可能性がありますし、そもそも現在の生産計画の立案方法や材料発注方法では納期に対応できない可能性があります。これがリスクです。

このリスクを解決する為には何を検討しなければいけないのかというのが第3問(設問2)で問われています。

・次に効果(メリット)についてですが、与件文第13段落の社長の方針や第3問(設問1)、第4問から、「量産体制を確立、自動車部品以外にも受注を行い、業績を拡大していく。」という方向性が読み取れます。

・この方向性を考慮すると、量産体制に対応可能な生産管理のノウハウを確立できるというのが解答の方向性です。

現状のC社の課題を解決し、短納期対応や多種少量生産への対応、品質向上等を図り、依存から脱却し業績を拡大していくというのは事例3で頻出のテーマです。

解答例

効果は、本格的量産機械加工に対応可能な生産管理のノウハウを獲得することができることである。リスクは、自動車部品とその他の加工品とで別々の生産管理が必要となり、納期遅延や在庫の増加が発生することである。(100字)

第3問(設問1)

・「新工場の在り方」という今まで出題されていない問われ方をしていますが、素直に読み取れば「C社にとって新工場をどのように位置づけるか、どのような場とすべきか。」ということになります。

・「量産体制を確立して、将来的には自動車部品以外の受注を目指す」という全体の流れ、第4問との関連性を考慮すると、「将来的に自動車部品以外の量産に対応する為の拠点として、体制整備やノウハウを蓄積する場とする」というのが解答の骨子になります。

・具体的な方法については、第13段落にC社社長の方針として明記されていますので、これを整理すれば解答となります。

解答例

将来的に自動車部品以外の量産機械加工に対応する為の拠点とする。具体的には、①多品種生産に対応可能なレイアウト設計、汎用性の高い設備の導入による生産性の向上、②作業者への教育による多能工化と標準化を行い、必要な体制の整備とノウハウを蓄積する。(120字)

第3問(設問2)

・第3問(設問2)は、冒頭の整理が出来ていれば取り組みやすい問題です。一方で、しっかりと整理が出来ていないと解答すべき内容を盛り込むことが出来ずに低評価となる可能性が高く、合否を分ける設問です。

・X社からの受託生産によって生じる問題を考慮すれば、①受注生産に加えて見込生産が必要であること、②月次の生産計画ではなく、3ヶ月毎の内示、1ヶ月毎の見直し、3日前の外注かんばんに応じた生産計画の立案が必要であること、③材料を都度発注ではなく、見込調達が必要になることが分かると思います。これが正に検討すべき内容=解答の方向性です。

・設問構造上、第2問で解答した内容の解決方法を求められていますので、一貫性を意識して解答を作成します。

解答例

検討が必要な内容は、納期遅延や過剰在庫を防ぐ為、①受注生産に加えて一部製品の見込生産を行うこと、②生産計画の立案頻度を高め、X社の3ヶ月前の内示、1ヶ月毎の見直し、3日前の外注かんばんに応じて柔軟に変更すること、③材料を都度発注ではなく、生産計画に対応した調達方法とすることである。(141字)

第4問

・第4問はC社の今後の経営戦略を問われています。

第2問、第3問の生産管理上の問題(事業戦略)よりも一段高い次元での解答が求められていますので注意が必要です。

解答の切り口 顧客=既存×新規

・与件文やこれまでの問題の内容を考慮すれば、C社が進むべき方向性は「X社からの受託生産(O:機会)に対応すること、自動車部品以外の受注獲得により業績を拡大していくこと。」であるのは明らかです。

この問題の解答当たっては、解答の切り口を意識しましょう。

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切り口

顧客の切り口は既存顧客×新規顧客です。

既存顧客

・X社を含む既存顧客に対しては、受託生産に応じることによって得られた生産管理のノウハウ、新工場設立によって整備された量産機械加工体制を活かして更なる受注量の拡大を図ります。その上で、生じた余力を新規顧客開拓に投じていきます。

新規顧客

・第1段落にあるC社の組織構成を確認します。

「組織は、熱処理部、機械加工部、設計部、総務部」です。

・何か気付きませんか?

・営業部がありません。

新規顧客を獲得する為に、営業体制を確立するというのは、事例3では頻出の論点です。
本問ではそれに気付けたかが重要なポイントです。

解答例

C社の戦略は、X社からの受託生産を通じて得られた生産管理のノウハウ、新工場設立による量産機械加工体制を活かして、①X社を含む既存顧客からの受注量の拡大、②営業体制を整備し自動車部品以外の新規受注に対応することにより、業績を拡大することである。(121字)
以上、参考になれば幸いです。
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※二次試験対策目次(目次順に読み進めていただくことでより理解が深まります。)
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