中小企業診断士二次試験平成21年度【事例4】をできるだけ丁寧に解説(解答例付)
・この記事では平成21年度【事例4】をできるだけ丁寧に解説していきます。
・与件文、解答用紙については各予備校のHPからダウンロードしてください。
・AASは平成13年度以降の全ての与件文、解答用紙が用意されているのでお勧めです。
平成21年度【事例4】の特徴
【出題内容】
設問 | 出題内容 | 難易度 |
第1問 | 経営分析 | ★ |
第2問(設問1) | 確率 | ★ |
第2問(設問2) | 財務レバレッジ | ★★★ |
第3問(設問1) | CVP分析、予想P/L | ★ |
第3問(設問2) | CVP分析、営業レバレッジ | ★~★★★ |
第4問(設問1) | 為替損益 | ★ |
第4問(設問2) | オプション取引 | ★ |
【難易度目安】
★:確実に正解できなければいけない設問
★★:合格者は正答する設問(合否を分ける設問)
★★★:難易度が高く、部分点狙いの設問
【全体の難易度】
高い
第1問 経営分析
・第1問は事例企業の短所または長所を3つ取り上げて、その原因を説明する問題です。
①財務指標は財務諸表からではなく、与件文から選ぶこと。
②財務指標の説明ではなく、D社の長所、短所を説明すること。
第1問① 長所:売上高総利益率(収益性)
・与件文に以下の記述があります。
第1段落 D社は高い縫製加工技術による自社製品に定評を有しており、
第1段落 高品質・高機能が消費者に支持されており、
第1段落 他方で自社ブランドを立ち上げ、
第1段落 その技術力から国内大手のY社より有名ブランド品のOEM生産を受託している
D社 | 同業他社 | |
売上高総利益率 | 25.09% | 20.92% |
・財務指標上もD社の方が優れていますので、1つ目の解答は売上高総利益率(長所)で決まりです。
・原因については、D社の強みを意識しながら与件文の記述をまとめていけば問題ありません。
(a)売上高総利益率
(b)25.09%
(c)高い縫製加工技術力や消費者の評価を背景に、自社ブランド製品による高付加価値化やOEM受注による売上拡大を行うことが出来たから。(60字)
第1問② 短所:有形固定資産回転率(効率性)
第1段落 本社を中核都市の駅前に構えており、
第3段落 隣地の中古不動産を買い増ししてきた。
第3段落 本社社屋の一部は老朽化しており、
第4段落 本社を売却した場合、18億円
・与件文に不動産の話が出てきたら有形固定資産回転率に問題が無いか疑いましょう。
・身の丈に合わない不動産や有休資産を保有し、効率性が低下しているというパターンが殆んどです。
・第4段落以降で本社社屋を売却するストーリーが展開されていますので、有形固定資産回転率が短所というのが解答の方向性になりそうです。
D社 | 同業他社 | |
有形固定資産回転率 | 2.62回 | 4.53回 |
・財務諸表をしてみても、同業他社に比べて低い数値になっていますので、2つ目の解答は有形固定資産回転率(短所)です。
・①同様に与件文の記述から原因を解答していきます。
(b)2.62回
(c)隣地の中古不動産を買い増した本社は、18億円の価値がありながら老朽化による建て替えが必要で、有効に活用されていないから。(59字)
・今回の解答では「有形固定資産回転率」を採用しています。
・効率性の悪さを指摘するだけであれば「固定資産回転率」でも良さそうですが、ここで解答すべきは絶対に「有形固定資産回転率」です。
・「固定資産回転率」だと投資有価証券も含めた数値の比較になってしまいますが、与件文には投資有価証券に関する記述は一切ありません。
・短所として指摘したいのはあくまでも不動産(有形固定資産)への非効率的な投資ですので、指摘したい内容をより明確に表す「有形固定資産回転率」が評価される解答です。
・「固定資産回転率」でも不正解ではありませんが、低評価になっていると思われます。
第1問③ 短所:負債比率(安全性)
・3つ目の指標は少し推測が必要です。
・先に挙げた売上高総利益率、有形固定資産回転率以外に解答となりそうな明確な記述が与件文からは読み取れません。
・収益性、効率性の指標を指摘しているので、安全性を指摘するのがセオリーですが、安全性の指標を意識しながら与件文を読むと、以下の記述があります。
第4段落 全額負債の返済に充当する
・第3段落に「中古不動産を買い増した」とありましたので、不動産を取得するために多額の借入をしたのではないか、金利負担による収益性の低下や安全性の低下が引き起こされているため、第4段落で本社を売却して負債を返済するストーリーに繋がっているのではないかという推測ができます。
・この仮説を以って財務諸表を確認すると、長期借入金、営業外費用が同業他社に比べて大きいことが分かります。
D社 | 同業他社 | |
長期借入金 | 1,626百万円 | 1,103百万円 |
営業外費用 | 208百万円 | 122百万円 |
・想定できる解答は、①長期借入金の増加による負債比率の上昇(安全性の低下)か②営業外費用の増加による売上高経常利益率の低下(収益性の低下)ですが、P/Lを確認すると経常利益は同業他社よりも大きく、借入金が多いということを指摘するという意味では負債比率の方がより適した指標と考えられます。
D社 | 同業他社 | |
負債比率 | 291.26% | 239.54% |
売上高経常利益率 | 4.83% | 1.81% |
(b)291.26%
(c)不動産取得の為の借入金が過大で、資本構成のバランスが悪く、営業外費用の負担も大きい為、収益性、安全性が低下しているから。
・財務指標を指摘する問題で最も重要なのは、その原因、理由((c)の部分)を与件文の内容に基づいて明確に説明できるかです。
・売上高経常利益率を指摘したとしても、不動産取得のための借入金により、金利負担が重くなり、売上高総利益率の割に売上高経常利益率ベースの収益性が悪化しているということをしっかりと指摘できれば、評価されていると思います。
・資本構成のバランスの悪さを指摘するのであれば、「自己資本比率」でも良さそうですが、前段の有形固定資産回転率同様、ここで指摘するべきは「負債比率」です。
・説明したいのはあくまでも借入金の多さですので、それをより端的に表す「負債比率」の方が高評価に繋がります。
第2問 確率、財務レバレッジ
・設問文の指示は「景気が減速すればー2.5%になる」です。
・9.7%から―2.5%で7.2%になるのではなく、ー2.5%になります。
・7.2%で計算すると第2問の数値を完全に間違えることになり、大きな失点に繋がります。
・分かっていたのに勘違いで間違えるというのは後悔してもしきれません。
・先入観で解釈をしないように、よく設問を読みましょう。
(設問1)確率 難易度:★
・設問1は与件文の指示に従って、予測されるROEを求める計算です。
・難易度は決して高くありませんので、落ち着いて取り組めば取れる設問です。
・総資本、負債、自己資本については、与件文で与えられている平成20年度の数値を使います。
前年並みの場合 | 景気が減速した場合 | |
総資本(①) | 5,012 | 5,012 |
総資本営業利益率(②) | 9.7% | △2.5% |
営業利益(①×②)(③) | 486.164 | △125.3 |
負債(④) | 3,731 | 3,731 |
負債の平均資本コスト(⑤) | 4.9% | 4.9% |
利息(④×⑤)(⑥) | 182.819 | 182.819 |
税引前利益(③-⑥)(⑦) | 303.345 | △308.119 |
自己資本(⑧) | 1,281 | 1,281 |
自己資本利益率(⑦/⑧×100) | 23.680・・・ | △24.053・・・ |
・生起確率はそれぞれ1/2(50%)ですので、23.680・・・%と△24.053・・・%から解答を求めると△0.186・・・%≒△0.19%が導き出されます。
△0.19%
・計算過程の四捨五入をどうすれば良いかという質問を受けることがあるのですが、私の回答としては、「計算過程の四捨五入はしない。」です。
・設問の要求はあくまでも「計算結果は%で解答し、小数第3位を四捨五入すること。」ですので、計算過程で四捨五入をすることは求められていません。
・計算過程で四捨五入を行うと結論の数値がズレることがあり、捉え方によっては設問要求を満たしていないことになります。
・電卓のメモリー機能を駆使して、桁数に収まる限り四捨五入を行わず計算するようにしましょう。
(設問2)財務レバレッジ 難易度:★★★
・財務レバレッジは総資本が自己資本の何倍かを示す指標です。
・財務レバレッジの活用によって、ROEにどのような影響が及ぶかを示した公式が財務レバレッジ効果です。
・財務レバレッジ効果は一次知識ですが、二次試験でも頻出の論点ですので、しっかりと押さえておきましょう。
ROE=(1-t){ROA+(ROA-i)×D/E}
ROE:自己資本利益率
ROA:総資本営業利益率
t:税金
i:負債利子率
D:負債
E:自己資本
D/E:負債比率
①ROA<i(業績が不調)の時
・負債の利用に伴ってROEが小さくなっていきます。
・負債の利用は有効ではありません。(財務レバレッジがマイナスの方向に作用しています。)
②ROA>i(業績が好調)の時
・負債の利用に伴ってROEが大きくなっていきます。
・負債の利用が有効です。(財務レバレッジがプラスの方向に作用しています。)
・財務レバレッジとは、他人資本(多くは借入金)を梃(レバレッジ)として活用することにより、自己資本のみで投資をするよりもより大きな効果が得られることを言います。
本社を売却し、得られたキャッシュフローを負債の返済に充当することにより、負債比率が低下し景気の変動による税引前自己資本利益率のバラツキが小さくなる為、経営環境の不確実性に対する業績へのリスクは低下する。(101字)
第3問 CVP分析、予想P/L、営業レバレッジ
・設問2の記述は難易度が高いですが、単純な計算である(設問1)、(設問2)(a)は確実に取りたい問題です。
(設問1)CVP分析、予想P/L 難易度:★
・第2問(設問1)同様、与えられた問題文の指示に従って計算を行う問題です。
・時間は掛かりますが、落ち着いて取り組めば取れる問題です。
・CVP分析は二次試験で頻出の論点です。
・出題年度によって、「営業利益ベース」なのか「経常利益ベース」なのか「当期純利益ベース」なのか異なります。
・CVP分析は大半の受験生が対策をしてきていますので落とすと合格がかなり厳しくなります。
・問題の指示をよく読んで、確実に正答できるようにしましょう。
平成20年度 | 平成21年度 | |
売上高(①) | 5,611 | 4,488.8 |
固定費(②) | 1,598 | 1,598 |
販管費(③) | 931 | 931 |
営業外損益(④) | 205 | 205 |
固定費合計(②+③+④)(⑤) | 2,734 | 2,734 |
・ここで、平成20年度の経常利益は271ですので、変動費をXとすると、売上高(①)ー固定費(⑤)ーX=経常利益271となり、変動費:2,606、変動費比率:46.4444…%が求められます。
・損益分岐点売上高:固定費/限界利益率(1-変動比率)ですので、2,734/限界利益率:53.555…%=5,105.03・・・(aの解答)が求められます。
・また、売上高が20%減少した場合の経常利益は売上高(①)×変動費比率:46.444…%-固定費(⑤)ですので、4,488.8×46.444・・・%-2,734=△329.978・・・(bの解答)が求められます。
(a)5,105百万円
(b)△330百万円
(設問2) CVP分析、営業レバレッジ 難易度:(a)★、(b)★★★
・(a)に関しては、設問1とほとんど変わりませんので、こちらは確実に取りたいです。
・設問の指示に従って計算をするだけです。但し、各数値の変化は設問ではなく、与件文に記載されています。
・損益分岐点売上高=固定費/限界利益率(1-変動費比率)です。
・限界利益率については既に設問1で53.555…%と求められていますので、本社を売却した場合の固定費を求めることができれば正解は導き出せます。
固定費の変動項目 | 変動金額 | 備考 |
賃料 | 45 | 与件文に記載 |
管理業務 | 60 | 与件文に記載 |
販管費 | △300 | 与件文に記載 |
営業外費用 | △144 | 借入金18億×金利8% |
合計 | △339 |
・本社を売却することより、固定費を339百万円削減することができます。
・損益分岐点売上高=固定費:(2,734-339)/限界利益率:53.555・・・%=4.472.03・・・(aの解答)
・(b)に関しては、まずは営業レバレッジが何かを知っていたかということだと思います。
営業レバレッジ(倍)=限界利益/利益(営業利益or経常利益)
営業レバレッジ(倍)=安全余裕率の逆数
・営業レバレッジは第2問の財務レバレッジと比較して考えると分かりやすいです。
・財務レバレッジは、総資本の内、負債の割合を示した指標で、大きくなれば大きくなるほど、ROAの変動がROEに与える影響が大きくなる、つまりハイリスクハイリターンになりました。
・営業レバレッジは、総費用の内、固定費の割合を示した指標で、大きくなれば大きくなるほど、売上高の変動が利益に与える影響が大きくなる、つまりハイリスクハイリターンになります。・財務レバレッジは総資本というカテゴリーの中で、負債を梃(レバレッジ)にすることにより、より大きな効果を得ようとするもので、営業レバレッジは総費用というカテゴリーの中で、固定費を梃(レバレッジ)にすることにより、より大きな効果を得ようとするものです。財務レバレッジ、営業レバレッジどちらにも共通して言えるのは、「数値が高ければ高いほど、よりハイリスクハイリターンになる。」ということです。
・第3問の設問1で求めた通り、D社は固定費負担が重く、売上高が減少すると、経常利益がマイナスになるというリスクがあります。その可能性は1/2(50%)です。
・第3問の設問2(a)で求めた通り、本社を売却して固定費負担を減少させれば、損益分岐点売上高は4,472.03百万円まで低下し、利益を生み出しやすくなります。
・また、固定費を339百万円削減することにより、経常利益が9百万円の黒字になります(設問1(b):△330百万円+固定費削減額:339百万円)。
・経常利益が黒字に転換する数値を与えていることも含め、とても考え抜かれた問題です。美しさすら感じます。が、試験当日に出題者の意図をここまで汲み取れた受験生は殆どいないと思います。
・この後解説する第4問もそうなのですが、平成21年度事例4のテーマは一貫してリスクヘッジでした。第2問、第3問はレバレッジを抑えることにより、第4問はオプション取引を活用することにより、リスクヘッジを提案することが求められています。
リーマンショックの余波は大企業だけではなく、中小企業にも及びました。
レバレッジの負の作用によって経営が破綻する中小企業も多数発生しており、そういった時代背景を意識した出題だったのだと思われます。
・事例全体を通じて一貫して流れるリスクヘッジの意識、レバレッジというキーワードから推測すれば営業レバレッジというキーワードを知らなくても、「固定費を減らして安定した経営を目指しましょう。」ということを解答できたかも知れませんが…かなり厳しいですね。(b)に関しては、取れなくてもやむを得ないと思います。
(a)4,472百万円
(b)本社を売却することにより固定費が削減され、営業レバレッジは低下する。営業レバレッジの低下と固定費削減による損益分岐点売上高の低下により、売上高が20%減少したとしても、黒字の経常利益を見込むことができる。
第4問 為替損益、オプション取引
・第4問は為替損益とオプション取引に関する出題でした。
・一次知識で対応可能で、解答文字数も多くありませんので、確実に取りたい設問です。
(設問1) 難易度:★
・為替予約の問題は感覚的に掴みづらく、苦手にする受験生も多いのですが、「商品を売ってドルを売り、ドルを買って商品を買う」の意識を持つと分かり易くなります。
・海外取引を行う場合にはドルで取引を行うことが前提になります。
①輸出の場合
「商品を売ってドルを売る」
・海外に輸出を行う場合、その代金はドルで支払われます。
・ドルを持っていても日本国内で取引はできませんので、受け取ったドルを銀行に売り、円に換える必要があります。
②輸入の場合
「ドルを買って商品を買う」
・海外から輸入を行う場合、その代金はドルで支払います。
・手元にドルがありませんので、銀行からドルを買って、代金支払いに充てる必要があります。
・このポイントを踏まえて設問1を確認します。
・D社は輸出企業ですので、「商品を売って、ドルを売ります。」
・500万ドル分の商品を売って、500万ドルを売る約束をしています。その際の為替レートは1ドル100円です。
・ところが、商品が430万ドルしか売れませんでしたので、手元には430万ドルしかありません。
・現在のレート(スポットレート:1ドルあたり102円)でドル70万ドル分買って1ドルあたり100円で売る必要があります。
・この2円×70万ドルが損失ということになります。
△140万ドル
(設問2) 難易度:★
・一次知識ですが、オプションの理解やメリット、デメリットを問う問題は事例4でも頻出ですので、確実に押さえておきましょう。
コールオプション:一定の金額で購入する権利
プットオプション:一定の金額で売却する権利(putから押し付ける=売りつけるイメージです。)
・オプションの買い手のメリット、デメリット
※オプションの売り手=銀行ですので、基本的にはオプションの買い手のメリット、デメリットを押さえておけば問題ありません。
メリット:①権利の行使、放棄を選択することができる。②為替差損を一定金額で抑えることができる。
デメリット:オプションを行使したとしても、放棄したとしても、一定の支出(オプション料)が発生する。
・どのようなオプション取引を用いるか問われた場合には、以下の4点を盛り込むと漏れの無い解答になります。
①プットオプションなのか、コールオプションなのか
②オプションの権利行使価格はいくらか
③オプションのタイプは何か
④オプションの決済日はいつか
・オプション取引には、①満期日までであればいつでもオプションを行使できるアメリカンタイプと②満期日にしか権利行使できないヨーロピアンタイプがあります。
・いつでも権利行使できる分、使い勝手はアメリカンタイプの方が良いですが、その分オプション料が高くなります。
・今まで診断士試験で出題されたのは全て、本問のように「決済時点での為替リスクを回避する」という前提の問題であるため、予め行使するタイミングが決まっているヨーロピアンタイプを解答させる問題でした。
(a)決済日を満期日とするヨーロピアンタイプ、1米ドルあたり100円のプットオプションを購入すべきである。(47字)
(b)長所は、為替相場に応じてオプションの行使または放棄を選択することにより、為替差損を一定額に抑えつつ為替差益を得られることである。短所は、権利の行使、放棄に係わらず一定のオプション料が発生することである。(100字)
※二次試験対策目次(目次順に読み進めて頂くことで、学習効果がより高まります。)
二次試験対策 目次 二次試験対策の記事を一覧化しています。まずはこのページから確認して頂き、概要から順番に確認頂くと効果的な学習に繋がります。記事を書く毎に順次追加していきます。 […]